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2018年4月 4日 (水)

桜吹雪

今年は少し早かったのだろうか、満開だった桜が散り始めた。桜並木を通るとピンクの小さな花びらがひらひらと舞い落ちてくる。絢爛たる満開の桜も、風靡なる桜吹雪も、一年のうちほんのわずかな期間というのが桜を桜たらしめている。
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「サクラサク」「サクラチル」というのはいささか古典的な合否電報の決まり言葉だったが、今はどうなっているのだろう。すっかりメールに置き換わっているのかも知れない。

 

50年近く前のこと、受験会場の下見に行った際、合否電報請負の小遣い稼ぎの大学生が客引きをしていた。「君は県外?」と私も声をかけられ、「そうです」と答え、「なら僕が責任をもって報せてあげるから、どう?」と。そこで、「でも、ケンガイはケンガイでも、合格“圏外”なんです」と応じたら、それまで緊張の面持ちだった周囲の受験生の空気がほぐれて大爆笑。その大学生に「君は合格する!」と妙な褒められかたをされたのを懐かしく思い出す。

 

桜吹雪と言えば、テレビの大人気ドラマだった「遠山の金さん」の代名詞のような感もある。派手な桜の彫り物を曝して、「この桜吹雪、散らせるものなら散らしてみろぃ!」と啖呵を切っての立ち回りは確かに痛快だ。実はこの人お奉行様。
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ただ、これでは今の時代、サウナにも行けないしゴルフ場の風呂にも入れない。それに、散るからこそ桜吹雪なのだけど、とチャチャのひとつも入れたくなる。とはいえ、筋書きが分かっているからこそ安心して観ることができるというのがひとつの持ち味で、あれこれ言うのはヤボというものだろう。今はもう再放送だけになったようで、いささか寂しくはある。

 

テレビは脚色としても、金さんこと、遠山金四郎景元は実在の人物で(1793-1855)、父親は人気ポストであった長崎奉行を務めた遠山景晋(かげみち)。景元は放蕩の時期があったようだが、勘定奉行、北町奉行、南町奉行などを歴任しているわけだから、今で言うエリート家系のキャリア官僚、それも次官か局長クラス、もっと上かも知れない。武家の間でも江戸時代はこういう家格、門閥によって縛られる身分社会だったわけだ。ただし、遠山家は旗本とはいえ、さほどの家格ではなかったようだし、こと勘定奉行に関しては、例外を多く出している。

 

ちなみに、この時の将軍が徳川家慶(いえよし)で、優れ者の阿部正弘を老中に就け、島津斉彬の藩主就任を図ったようだ。父親は徳川家斉で、将軍職から引退してよりも強い発言権を保持していたらしい。徳川家慶の代までは将軍職はほどよく機能していたわけだが、その家慶の嫡男である家定が全く適任でなかったことに江戸幕府の大きなつまづきのひとつがあった。家慶が将軍在位のまま亡くなったのは1853727日で、ペリー来航から1ヶ月も経っていない時であった。継嗣は家定である。阿部正弘は185786日に30代の若さで急死する。これも江戸幕府には痛手だったと思われる。

 

将軍は大体にして将軍家すなわち尾張徳川家から出る。後継のない場合は、紀州徳川家、水戸徳川家から養子を迎える。これが徳川御三家である。御三卿は、徳川家から分家した田安徳川家、一橋徳川家、清水徳川家で、決まった領地を支配する大名というよりも徳川家の家族としての扱いだったようで、世継ぎがない場合に御三家に養子を提供する役割も担ったという。わざわざ養子にするのは、門閥の大義名分を重視したからである。結果、原則的であろうとして変則的になった面もある。

 

将軍継嗣が、誰が賢いから、という抽象的な話になってしまうと、必ず跡目争いで揉めてしまう。だから、あくまで血筋が近い大義名分の通る者というのが原則である。以前に触れた王の継承に似ている。江戸時代には憲法も“将軍典範”もないから、多分に慣行でなされてきたようだ。およそ任に堪えそうもない家定が将軍になったのもその原則にのっとったからである。井伊直弼が家定の継嗣として聡明でなる一橋慶喜ではなく若年の慶福(家茂)としたのも同様である。

 

オーナー企業の社長人事などもそうだが、血縁主義が続くと必ずどこかで弱体化が起こる。江戸幕府がそれで長く続いたのは奇跡に思えるが、むしろ、もはや徳川吉宗のようなカリスマ将軍を必要としないほどに統治機構が発達していたと見るべきだろう。それでも、外国のノックで朝廷との二重構造の脆弱性が曝け出されたわけだ。

 

それはさておき、西郷隆盛が初めて江戸に赴いたのは1854年なので、前年のペリー来航による大騒ぎ、そしてペリーが再来しての日米和親条約締結の頃であった。まさか知己ではあるまいが、出家していた晩年の遠山の金さんと江戸で一緒だったことになる。

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