« 早期の英語教育 | トップページ | 不正続きの日本工業界 »

2017年11月18日 (土)

医療報道拾い読み

ちょっぴり医療とうたいながら、ここのところチョッピリも書いていないので、今回はネットや新聞で見た医療関連の報道の拾い読みを、どんなことを考えながら見ているのか、ちょっと書いてみる。なお、私にはメディア以外の情報はなく、あくまで個人的な推測である。

 

板門店で北朝鮮兵士が南側に脱出しようとして銃撃されたという事件があった。どういうわけか「生命に別条ない」と当初は報道されていた。銃撃されてそれはないだろうと思っていたが、実際、非常に危ない状態だという。

 

短期間で二度の手術が施行されたことの意味は一般のかたには分かりにくいだろうが、これは外傷外科ではしばしば行われることで、状態が悪い場合は、最初の手術では、致命的となる出血をおさえ、腸管の損傷による腹腔内汚染を最小限にすることに特化する。完全な修復は期さない。これをダメージコントロールと言う。まずそれをして命をつなぎとめ、しかる後にまともに縫合すらしていない腹壁を開け、損傷を再確認して必要な処置を行う。銃撃で心停止に近い状態になるほどの重傷を負った國松元警察庁長官の場合に施行されたのもこのような手術である。いずれも外傷専門医ならではの適切な処置だ。

 

北朝鮮兵士の事例は、未だ意識不明ということが報道で強調されていたが、頭部外傷や心停止をきたしたエピソードがなければ、救命できれば意識は必ず戻る。状態が悪くて人工呼吸が施行されていれば、仮に意識があっても鎮静剤などで人為的に無意識状態におくため、意識があるとかないとかはあまり意味がない。

 

それにしても、拉致問題の悪辣さにも度重なる威嚇や恫喝にも怒りを覚えるが、その一方、一般の国民一人ひとりに罪があるわけではなく、かの国の人権無視の悲惨な状況には胸が痛む。トランプ大統領はあまり好きではないが、20年以上の北朝鮮ウォッチャーとしては、彼の北朝鮮に関する言は正しいと思う。強大な戦力が展開中は口実となるような挑発行動を何もしないのはかの国の狡猾な常套手段だ。いつまでも大規模訓練をしてはおれないわけで、トランプさんも手玉に取られている。

 

元若嶋津、二所ノ関親方がサウナの後、自転車で転倒して意識不明で倒れているところを発見され、緊急手術を受けたという報道があった。当初は「生命に別条はない」とも書かれていたが、それはあり得ない。そもそも、意識不明だけれども生命に別条ない、という状況は極めて少ない。例えば睡眠薬の大量服用が明らかであれば、意識不明であってもほぼ確信をもって「死に至ることはまずない」と言えるが、通常は、意識不明というのはそれだけで命にかかわる重症である。仕方ない面もあるにせよ、急ぎの報道では、「何のことやら」と、理解に苦しむような内容が少なくない。報道から時間が経てば少しずつ正確になってきて、ああ、そうだったのか、となる。

 

二所ノ関親方については、未だに意識が戻っていないのなら、転倒による急性硬膜下血種である可能性が高い。紛らわしい病名に急性硬膜外血種がある。どちらも意識障害をきたすほどの血種があれば緊急手術の対象となる。頭蓋骨のすぐ下に血の塊ができる急性硬膜外血種は後遺症なく意識回復が得られることが多い。急性硬膜下血種は血の塊がより脳の表面にできるもので、脳実質の損傷を伴っていることが多く、意識回復が遷延するか、回復しない。緊急手術をしても死に至ることも少なくない。

 

自転車に乗る前にくも膜下出血を起こしていたのではないかという推測もあるようだが、確かにくも膜下出血をきたしても当初は意識がはっきりしていることはある。それであっても、ひどい頭痛でとても自転車には乗れないだろう。ただし、当初は出血量が少なく、肩こりや気分不良、軽い頭痛で発症し、経過を見ているうちに再出血により重篤な意識障害になることはある。頭のCT写真を見ればどれかはたいてい一発で分かるけれども、そこまで報道されることはないので分からない。ともあれ、かつての人気力士で、アイドルだった高田みづえさんの夫の二所ノ関親方の回復を祈りたい。

 

アンパンマンの番組で声優をしていたかたが57歳で高速道路上で急死していたという。大動脈解離と報道されているが、動脈が裂けて破裂するこの疾患ならそういう状況は起こり得る。多分そうだろう。それにしても、ハザードランプをつけて路肩に停止していたというのはすごいことだ。激烈な痛みに襲われ、薄れゆく意識の中で咄嗟にそうしたのだと思う。

 

大動脈解離にも色々なタイプがあるが、最重症例はこのパターンであっという間に命を失う。こぶ、すなわち瘤を作るタイプであれば健診などで事前に見つかることがあるが、瘤がなく動脈の膜がいきなり裂けて破裂するタイプは事前には全く分からない。

 

くも膜下出血も大動脈解離も、直前まで元気で、青天の霹靂のように襲ってくる病魔なので、何とも恐ろしい。しばしば報道される壮年期のバスの運転手の突然死も多くはこれらだ。健診ではまず予測不可能で、休養を取っていたかどうかも関係ないように思う。急性心筋梗塞はいきなり心停止の一種である心室細動をきたさなければ事故回避行動の余地はある。

 

 

私の場合はそれを職業としてきたので、医療関連の報道は、時に首をかしげながらも、読みやすい。他の分野は、やはり分からない。特に経済に疎いので、株価についての報道には検証能力が全くないのが残念だ。医療報道などからして、メディアを無検証に過信するのは禁物だと思うようにしているが、どうなのだろうか。そんなこんな、今回は思ったまま感じたままに綴ってみた。

« 早期の英語教育 | トップページ | 不正続きの日本工業界 »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事