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2017年4月 6日 (木)

板門店

ブログを綴っていて、ここのところ、韓国や北朝鮮の問題、雪崩事故、外国籍の少女の殺人事件、シリア情勢などなど、気が滅入ることばかりで、スーダンの思い出をテーマにするつもりの手が止まってしまった。そこで、今回は朝鮮半島について少し記してみたい。

 

どこまで正確な把握ができているかはともかく、私に関してはスーダンより朝鮮半島の方がはるかに詳しいことは確かだ。以前のブログでそのことに触れた。

http://bogeytetsu.cocolog-nifty.com/blog/2015/02/post-1770.html

 

スーダン訪問より少し前のこと、韓国政府の元大臣級のかたのエスコートを受けて南北の境界線に位置する板門店を訪れ、非常な緊張感を覚えたことが心に残っている。“思い出”という生易しいものではなく、空気で感じた冷え冷えとした恐怖の記憶である。

 

写真の青い建物が軍事停戦委員会の本会議場で、後方正面に見える北側の板門閣からは北朝鮮の兵士がしきりと双眼鏡でこちらを観察していた。

Photo

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%BF%E9%96%80%E5%BA%97

 

上空から見るとここにある建物はこんな形をしている。青い建物の真ん中が軍事境界線とされている。
Photo_2

国境はというと、南北双方の主張が食い違い、決めきれていない面がある。だからこの建物近辺を共同警備区域と呼称し、かつては双方が移動できたが、何度か深刻な事件が発生したため、今は南北の兵員が入り交じることは規制されている。非武装区域というのは、偶発的な衝突を避けるために国境線に沿って設けられた非武装の概ね幅2㎞の区域である。当然のことながら板門店はこの区域内にある。

 

幸いなことに長く続いているものの、現在はあくまで朝鮮戦争(19501953年)の「休戦」に過ぎない。したがって、板門店は紛れもなく戦争の最前線だ。

 

通常のルートとして板門店に行くには特定の橋を渡る必要があり、許可がない限り一般人が行けるのは橋の手前までだ。不用意な行動をしないように訪問者には事前にこまごまとした注意が与えられる。自己責任だという書類にサインし、許可証を胸にかけて橋を渡る時にはさすがに背筋が震える思いであった。なお、「帰らざる橋」というのはこの橋ではなく捕虜交換に使われた板門店の西側にある小さい橋である。

 

板門店には不思議なことに少数の一般の居住者がいる。昔から住んでいる人の既得権として認めていると聞いた。

 

同行した韓国人のかたが、帰り際に、橋の板門店側で警備をしていた米兵(正確には国連軍兵士)に「Have a nice day!」と声をかけ、米兵も屈託なく「You too!」などと返答していた。他愛もない定型の挨拶とはいえ、こんなところの職務ではどうやっても「nice day」は過ごせそうにはない。閑話休題。

 

スーダンでは、「displaced people」という言葉を多く耳にした。難民は「refugee」と表現されているが、これは通常には国境を越えた避難民を指し、内乱や飢餓などで郷里を追われ国内での避難を余儀なくされた人々はdisplaced peopleと呼ばれる。スーダンにおいて、特に南スーダンの独立前にはこの国内避難民が多くいたわけである。

 

UNHCR、すなわち国連難民高等弁務官事務所が管轄するのはrefugeeであり、displaced peopleは対象外である。そうでないとしても、とてもではないが手が回らない。displaced peopleに対しては国際NGOが支援しているが、国家規模、国連規模ではないので限界がある。

 

ここでその言葉に言及したのは、朝鮮半島でもしものことが起これば、夥しい数のdisplaced peopleを生じ、そして中朝国境や海を越えるrefugeeが発生することが確実だからである。アメリカ、中国、ロシアなどの大国が、北朝鮮への対応に苦慮し、韓国の政情不安定を苦々しく思うのは、少なくともひとつはこの点にある。

 

displaced peopleという言葉がピンとこなければ、福島の原発事故で避難せざるを得なかった人々を思い起こしてみればよい。日本も決して無縁ではないのである。そして、そう遠くない将来、強く関わらざるを得なくなることはほぼ間違いない。

 

板門店は、かつての同一民族が激しく敵対している中で、お互いが直接に接しうる唯一の貴重な場所である。そのつもりでこの場所での動向にも留意していかねばならない。このことは、決して他人事ではない。

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