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2016年12月25日 (日)

超ミクロと超マクロ

極大は

極微を住まわすが

極微は

極大を支配する

 

この言葉は故戸塚洋二さんが平成2061日付けで弟分の梶田隆章さんに揮毫したもので、『日経サイエンス』に紹介されている。このひと月あまりのちに戸塚さんは惜しまれつつ世を去る。梶田さんがノーベル賞を受賞したのは平成27年のことである。

 

我々の周りにある物質は、したがって地球も月も太陽も、もとをたどればそれ以上小さく分割できない素粒子であるところのクォークと電子からできているというのが現在の解釈だ。そうすると、極大の宇宙も、未知のものはあるかも知れないが、そもそもは素粒子で構築され、その姿も形も極微の素粒子の性質に拠っているはず。言ってみれば単純な話だ。戸塚さんはそれをしてこのように表現している。

 

その戸塚さんは、『素粒子物理』の中で、ひとしきり数式で語ったのちに、「したがって、バリオン・反バリオン対称の宇宙では、とうていわれわれ人類の存在を証明することはできない。何かがおかしいわけであるが、現在のところその解決方法はわかっていない」とのべている。先に単純と記したが、あくまで筋道としてはということで、実のところ、超ミクロも超マクロも、“単純”にはほど遠く、超が3つつくぐらいに難解で謎だらけだ。

 

大きなところはアインシュタインの一般相対性理論、小さいところは量子力学の標準理論で語られることが多いわけだが、この二つはまことに“相性が悪い”という。要は統一して単純に語ることができていないということだ。多分どちらも “何かがおかしい”。それも無理はない。超マクロと言えば光の速度で何万年、何百億年を要するはるかかなたのことになるし、超ミクロと言えば、そもそも原子は1000万分の1ミリぐらいの大きさで、その原子を地球とすれば、素粒子は大きさがあったとしても野球ボール以下だというから、とんでもないスケールの差がある。なお、素粒子のふるまいにも感覚は全く通用しない。

 

バリオンというのは、クォーク3つで構成される粒子で、代表的なものが陽子と中性子だ。物質の根源となる元素は、陽子と中性子を原子核として、その周囲の電子で構成されている。化学の表現では元素で、物理学の表現では原子と呼ぶようだ。その性質はおおむね陽子の数で決まってくる。現在のところクォークは6種類あり反クォークもあるが、まずはアップクォークとダウンクォークと考えておけばよいと思う。
Photo
『ニュートン別冊』のイラストより

 

インフレーションかビッグバンか、宇宙は途方もないエネルギーから生じたと言われている。アインシュタインが特殊相対性理論のE=mc2で示したように、エネルギーと質量は同等で、そのエネルギーが物質というか粒子になる時は、性質が同じで左右とか回転を反転させただけの双子のような粒子と反粒子のペアで生じるという。逆に、粒子からなる物質と反粒子からなる反物質が出会うと莫大なエネルギーを出して消滅する。これがどれほどのものかというと、わずか0.25gで都市が吹っ飛ぶというから、核爆弾どころの話ではない。幸いなことに、理論物理学者の村山斉さんによれば、0.25gの反物質を作ろうと思えば、電気代に換算して1兆円の1億倍かかり、そんなものは作れないそうだ。

 

それで、物質があるのなら反物質もあるはず、あるいはどこかでどちらも消滅したはずなのに、今の宇宙はほとんどが物質で反物質は普通には見られない。これは大きな謎だという。先の戸塚さんの『量子物理学』での語りはこのことを言っている。反物質は“普通には見られない”と記したが、反電子は宇宙線が地球の大気にぶつかって生じていることが確認されている。人工的にも作られており、これを利用したのが、がんの検査で用いられるPETである。しかしこれは、あるというだけで、ごくごく微々たるものだ。

 

さて、超マクロである宇宙の大きな謎のひとつは、宇宙の質量の25%を占めるというダークマターである。質量があって大きな重力作用を起こしていることはわかっていても、今までに見つかっている素粒子による構成とは異なっているようで、現在の科学では見ることもふれることもできない謎の物質だ。

 

『素粒子のすべて』(ニュートン別冊 20161220日発行)によれば、それはSIMPStrongly Interacting Massive Particle)ではないか、という新説が権威ある科学誌に昨年掲載されたそうだ。SIMPはクォークそっくりの粒子と反クォークそっくりの粒子、そしてそれらを結びつけるグルーオンそっくりの粒子で構成されていることが仮想されているという。クォークのような素粒子が二つなのでバリオンではなく湯川秀樹氏が提唱し日本人初のノーベル賞受賞となったパイ中間子によく似ているらしい。このことは、提唱者である東京大学国際高等研究所カプリ数物連携宇宙研究機構長の村山斉氏らによって数式から導き出されている。

 

これから検討がなされていくであろうが、ダークマターの謎を解明すれば間違いなくノーベル賞だ。この領域には、学説がビシッと決まって実験で検証されたらの話だが、ノーベル賞候補になり得る日本人研究者が多くいるというのは誇らしいことだ。なお、数式から導き出すというのはよくあることで、そもそも反電子はポール・ディラック(1902-1984)、ニュートリノはヴォルフガング・パウリ(1900-1958)が、理論から提唱している。二人ともノーベル賞の受賞者だ。彼らや、アインシュタイン(1879-1955)、ハイゼンベルグ(1901-1976)などとの交流を綴った難解な量子論の書も最近読んだので機会を見て紹介したい。

 

わかりもせぬままに自分が勝手に面白がっているだけのことで、こんな話は誰も興味がないだろうと思いつつ、インプットしたらアウトプットしたいのが性で、また書いてみた次第。京都大学理学部を出てから医学を志したという知人の医師に、「量子論に苦闘している」とこぼしたら、「そりゃ無謀ですよ」と一笑にふされてしまった。

 

ともあれ、超ミクロと超マクロが密接に関連しているということだけはようやくにして少し理解できた。関心があるかたがたと共有していきたい。

 

タイミング的には本稿が今年最後になりそうだ。

皆様どうぞよき年末年始をお迎え下さい。

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