« 1時間で52㎜の雨 | トップページ | 医局 その2 医師のプール »

2016年9月28日 (水)

医局 その1

一般向けの記事に「医局」という言葉がしばしば使われている。こんなのが普通に分かるのかなぁ....記者だって実感はないだろうにと、いつも不思議に思いながら見ていた。以前に医局について稿を改めて書くとしていたし、本来は業界内部の者が説明しなければならない。そこで、医師によって見解が異なる面はあるかも知れないという点を前置きして、何回かに分けて私なりの解説をしておきたい。

 

まず、「医局」は、二つの意味で用いられている。

 

ひとつは市中病院の「医局」だ。市中病院というのは大学病院ではないという意味だ。これは単純にその病院の医師が集う場所、あるいは医師集団を指す。地域によって特定の大学に偏る傾向はあっても、市中病院では出身大学などは概してバラバラだ。

 

学会のポスターがペタペタ貼られ、医師それぞれの机が並び、談話室があるというのはどこの病院の医局にも共通している。診療科ごとに部屋が割り当てられることもあるが、最近の傾向としては相互のコミュニケーションのためにも総合医局として場をおく方が多い。
Photo
2
単なる世話役の医局長もいて医局会も開催される。薬剤部や検査部、放射線部などから伝達も行われるが、最近は院内LANが発達しているので、詳細はそれらで行い、注意点だけに止めている。医療安全管理室や感染管理室から強い警告があることもある。非常に重要なことは別途多職種の役職者で会議が開催されるので、医局会の議論としては、ストックする茶菓子やコーヒー、カップラーメン代などをいくらずつ徴収するかというたわいもない話の方が多い。

 

院長はこの集団に対して強い指揮権というか権限があると一般には思われるかも知れないが、必ずしもそうではない。医師が一同に会した時に話をする機会は多くないため、「私からのお願い」と低姿勢で参加することがしばしばだ。もちろん、誰も逆らえないカリスマの猛者院長もいるにはいるが、雇われ院長が多い大きな病院では少数派だろう。なお、大学病院は医師の総数が多すぎて最低限のまとまりすらもなく、この意味での医局は存在しない。

 

医局のもう一つの意味は、「大学医局」だ。医局と言えば普通はこちらを指す。○○大学第一内科とか第二外科、眼科、泌尿器科とか、最近は一とか二とかは使われない傾向にあるが、典型的にはこういった名前だ。一時は生体制御なんたらかんたらとやたらややこしい名前がつけられて、わけがわからなかったが、最近では消化器内科とか、肝胆膵外科とか、分かりやすいシンプルな名前に回帰したようだ。

 

教授を頂点としたそのそれぞれを医局と呼ぶ。第1内科、第2内科あるいは第1外科、第2外科、脳神経外科、耳鼻咽喉科など、名前の数だけ医局がある。教室や研究室と称することもある。この辺りの話がややこしいのは、医学部は文部省管轄で、付属病院は厚生労働省管轄と、異なっているせいもある。管轄それぞれに定員があるが、主任教授を含め、准教授などの役職者は兼任が多く、医局としては同じと考えてよい。医局と呼ぼうがどうしようが、秩序のあるまとまりがなければ組織としての体をなさないので、こういう形はいいとか悪いとかの問題ではない。この医局が勤務医のプールの役割を果たす。医局長は手配師のような役割を担うわけだ。権限があると言えばあるが、派遣している医師への病院からのクレームを受け、対処も考えなければならないので、あまり楽な立場でもないだろう。元医局長をしていた知己の医師は“疲れ果てた”とこぼしていた。役得もないままに、内外から文句ばかりを受けるはめになりがちだ。

 

大きな病院の勤務医はこの医局からの派遣、あるいは医局の出身者が多い。だから帰属意識は大学医局にあり、病院へのそれが希薄な傾向がある。院長があまり強く出れないのは、医師のバックに医局があるからだ。ここと揉め事を起こして引き揚げという憂き目に遭うわけにはいかない。医師は労働組合には入れないが、医局が無言の圧力で派遣している医師の身分を守っているという面はある。

 

県立や市立などの公立病院に勤めていても、公務員である、という意識などまずない。若い時はいつ医局の采配で移動の指示が来るかわからない。その医局がどういう病院を関連病院として擁しているかによって異なるが、公立病院から、公的と呼ばれる済生会や日本赤十字社の病院などに移ることもあるし、民間病院に移籍することもある。私自身に関しては、それらのどれにも勤務したことがあり、国家公務員だったこともある。その時は何も思わなかったし、もう履歴書を提出するようなこともないだろうが、今にして思えば奇妙な職歴ではある。

 

母体の組織が異なるわけだから、一般的にはこういう移動は退職と新規入職で、形の上ではそうなのだが、医局所属の医師の意識としては“人事移動”である。医局所属でなくても、医師の意識としては単に“移動”である。患者さんから、医師がコロコロ変わると不興を買ったり、首を傾げられたりするゆえんはここにある。それを良しと見るか悪しきと見るか、人それぞれだろうけど、事実としてこのような慣習があったし今もある。これに一石を投じたのが新臨床研修制度で、今、病院の医師人事は旧来の秩序との間で揺れ動いている。この稿続く。

« 1時間で52㎜の雨 | トップページ | 医局 その2 医師のプール »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事