« へんな星たち | トップページ | 宇宙と江戸時代 »

2016年7月10日 (日)

『県庁そろそろクビですか?』

著者は、仕事が目に見えて残るのは“単純に嬉しい”と表現しているので、それに倣って書けば、この書は“単純に面白い”。随分話題になったようなので、読まれたかたも多いかも知れない。『県庁そろそろクビですか?』(円城寺雄介 小学館新書)のことだ。
Photo

佐賀県の県庁職員として、救急現場を知りたいと救急車に同乗したり、救命救急センターに泊まりこみをさせてもらったりと、確かに円城寺氏は“はみ出し公務員”ではある。救急隊員はみんな公務員だし、佐賀大学医学部もそもそも国立なのでみなし公務員なのだが、専門性というか、職域の壁があって、事務職の公務員がそこまですることはあまり前例がない。

 

県民気質かどうかは知らないが、著者が書の中で紹介しているように、佐賀の人材が幕末維新期に活躍したことは間違いない。維新後、世には大隈重信がよく知られている。早稲田大学を創設したのはむしろ小野梓の力によるところが大きいが、お金がなければ何もできないわけで、創設者としてはやはり大隈重信になるだろう。外交の副島種臣、文教の大木喬任もいる。歴史の闇に葬られた江藤新平の新政府での素晴らしい事績は枚挙にいとまがない。一般にはあまり知られていないが、同じく非業の死を遂げた島義勇は、北海道開拓にあたって札幌の適地性を見抜き今の大都市札幌の礎を作った人だ。

 

それはさておき、佐賀県は医師と看護師を乗せていち早く現場に赴くドクターヘリの導入については非常に遅かった。かつて佐賀県の医療面の要職にあるかたと意見交換をした際、「佐賀は背振山で沿岸部が隔てられているし、山間部もあるから需要は多いと思うのですが、どうしてドクターヘリを導入しないのですか」と尋ねたことがある。その時は、さほどの必要性もないし佐賀県は今のところ導入予定はない、とのことであったが、そのうちあれよあれよという間に導入の運びとなった。はて、と思っていただけに、佐賀県庁にこういう人がいて旗振りをしたのだと知った。非常によかったと思う。あちこちに重装備病院を整備する発想だといつまでたっても医師不足、看護師不足と嘆くことになる。ヘリなどを駆使して基幹病院の診療域を拡げ、中小規模の医療機関と地域連携を図った方がよほど効率的だ。写真は『航空の現代』に紹介されていた佐賀県のドクターヘリのベル429
429
県庁そろそろクビですか? ということだが、クビは面白くないとしても、私はこういう人が他に場を移すのは大いに結構だと思っている。これだけの行動力があればどこでも活躍できる。そういう人材の流動性に日本社会は欠けている。枠にはめられているかのような公務員だってやる気になれば色々なことができる、というのが著者の主張で、それはその通りで大変有り難いことなのだが、公務員はやはり法律や条例で決められたことを決められたように対処するのが一面であることも確かだ。斬新な発想に溢れていて公務員より他の方面が適しているとか、実直に組織の一角を担う公務員の方が性にあっているとか、色々あるだろう。日本では転職は負にとられることがしばしばだが、欧米では転職は一つのキャリアアップとみなされると聞く。日本は公務員になれば概してずっと公務員で、人材流動性というか、社会全体で適材適所を作るシステムが欠けていると常々感じている。先に挙げた江藤新平は、人材こそが国の宝だと書き記している。

 

人は誰しも生活があるので、とりあえず安定した生活を保障してくれている場を去って転職というリスクは負えないという面は確かにある。だからこそ、能力のある人こそ先陣を切って社会の流動性を作って欲しいと思う。そして、それがうまくいかなかった時の敗者復活戦というか、さらに一歩下がって最低限のセーフティーネットのある社会であることも必要であろう。そんなことなども感じた読後であった。

« へんな星たち | トップページ | 宇宙と江戸時代 »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事