« がんと闘った科学者の記録 その9 ノーベル賞 | トップページ | へんな星たち »

2016年6月23日 (木)

テキヤはどこからやってくるのか?

Detail_poster09

 

http://image.search.yahoo.co.jp/search?rkf=2&ei=UTF-8&p=%E7%94%B7%E3%81%AF%E3%81%A4%E3%82%89%E3%81%84%E3%82%88#mode%3Ddetail%26index%3D42%26st%3D1506

 

テキヤと言えば、多くの人が真っ先に「寅さん」を思い浮かべる。寅さんは全国あちこちの縁日に出かけていっては巧みな口上で少々怪しげなモノを売る商売だ。それはそれで映画の設定なのでいいのだが、改めて考えてみるに、テキヤ、露天商、香具師(やし)がどういう人達なのかというのは意外に知らない。

 

『男はつらいよ』のテーマソングの一節に、

 

どおせおいらはヤクザな兄貴 

     わかっちゃいるんだ妹よ 

 

というのがある。歌詞の意味するところは少し違うが、テキヤがその筋の人かというとそうではない。少々値段が高くはあっても、アウトローの人達にとってどうみてもコストパフォーマンスがよさそうにもない。地道な準備も後かたづけもいるだろう。そもそも額に汗してイカ焼きやタコ焼きを作って売るのは明らかに働いているわけで、アウトローと見るのは気の毒ではある。それに、そんなにコワモテというわけでもなく、全く普通に見えるオバチャンもいる。実際、多くは普通の人なのだろう。

 

夜店というか露天商はやはり縁日につきもので、祭りに彩をそえる風物詩とも言える。
Arai_yakushi_001_ennichi_20060628
故北原謙二さんが歌った懐かしの名曲『ふるさとのはなしをしよう』には下記のフレーズがある。

 

鳴る花火ならぶ夜店に ♪

縁日のまちのともしび ♪

下町の夜が匂うよ ♪

 

夜店というのはそこはかとない郷愁を思い起こさせる。そのぐらい地域に根付いているわけだ。私も、刃物を腕にあてて血を出し、秘薬なる軟膏を塗ったらスパッと血が止まって傷もなおる、とやっていたのを子供ごころに感心して見ていたかすかな記憶がある。今にして思えば、これこそ香具師で、たぶん手品の一種だろうし、軟膏というのも怪しい代物だろうけど、パフォーマンスとしてみれば、それはそれで楽しませてくれるものではある。プラスチックのお面を見たり、金魚すくいやヨーヨー釣りも子供心に楽しかった。

 

こういう疑問に応えてくれたのが『テキヤはどこからやってくるのか?』(厚香苗 光文社新書)で、筆者はフィールドワークとして色々な調査をしたようで、なかなか興味深く読んだ。

 

この書によれば、「さきに結論を述べてしまうと、大半は近所からやってくる」そうだ。確かに、寅さんのように、アチコチ遠くに移動していたのでは交通費が嵩んで商売にならないだろう。それで、店を出す場所、例えば石段の上なのか下なのかなど、どこに店を出すかというのを「ミセワリ」と言い、そのナワバリのボスたる「セワニン」が割り振るという。ではナワバリ以外のよそ者は店を出せないかというと、そうではなくて、「アイニワ」というシステムがあって、許諾を得れば店が出せるらしい。その際は、セワニンに口上という形で挨拶をするのがしきたりだという。出店の後片付けをきちんとするというのは鉄則になっている。

 

反社会的組織、つまり暴力団、もっと端的に言えばヤクザ、との関係はどうかというと、それは、関係があるようなないような、微妙なところらしい。元ヤクザだった人はいるし、揉め事の仲裁などには関わるのかも知れないが、私の理解では、通常においては密接な関係はない。仮に、あがりを掠め取られるということがあったにしても、資金源と大仰に言うほどの額にはならないだろう。同書の記載によれば、「ヤクザは極道だが、テキヤは神農道だ」だという。わかったようなわからないような話だが、神農は薬効の職能神だと解説されている。

 

とはいえ、テキヤ集団は一種独特の世界を作っていることは確かで、格付け、割り振り、親分子分の関係、などなど色々なしきたりがあるようだ。大学病院の医局はいわばインテリ集団だが、教授が親分で医局員は子分、内部の格付けがあり、アルバイトや派遣先の割り振りなどのしきたりもあり、ナワバリもある。それが何であれ、組織の秩序というのは、およそ似た形になるのだろう。違うのは業界用語ぐらいだ。

 

『テキヤはどこからやってくるのか?』は、平易な書き物を志向したのだろうが、やや論文臭もあって読みにくいところもある。でも、社会的に認知されていながら謎が多いテキヤ集団を、フィールドワークをしながら正面からとらえようとした力作として大変面白く、知らなかったことを教えてくれた書であった。

« がんと闘った科学者の記録 その9 ノーベル賞 | トップページ | へんな星たち »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事