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2016年4月25日 (月)

がんと闘った科学者の記録 その4 やりたかったこと

戸塚氏のブログの内容は立花隆氏が抜粋で『がんと闘った科学者の記録』に収載している。専門領域についての部分はKEK機構長としての講演をあわせ、夫人と編集者の手により別途『戸塚教授の「科学入門」』(講談社 2008年)としてまとめられて出版されている。
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この書によれば、戸塚氏はCERN(欧州合同原子核機構)のLHC(大型ハドロン衝突型加速器)について、「もう陽子と陽子を衝突させる加速器は、これ以上のものを作ろうという気力も起きないぐらいLHCは、世界で最高のものです」と語り、「これだとヒッグス粒子は確実につかまる」と断言している。実際、ヒッグス粒子は2012年にLHCにより発見され、2013年にはその追認がなされた。ところが、陽子と陽子を衝突させる実験の成果には限界があり、戸塚氏はどうしても電子と陽電子(反電子)の衝突実験が必要と考えていたようだ。これが以前に書いた日本への設置も検討されているILCInternational Linear Collider:国際リニアコライダー)だ。ただ、これは実現するとしても相当に時間がかかり、いくら願おうとも、また、仮に戸塚さんに病気がなくてもとうてい間に合わない。

 

何をやりたかったか、私は公になっていることしか知らないし、素人の推論などあてにならず意義もないかも知れない。しかし、ともかくも、遺された一般向けのものを、少しでも理解しようと一生懸命読みましたよ、という私なりの哀悼譜である。

 

あれこれ見ていると、キーワードになるものがある。ひとつは、質量分析から、銀河にもやもやっとかかっていると見られる暗黒物質(ダークマター)だ。宇宙の研究者や素粒子物理学者なら誰しも探求したいことで、戸塚さんもこれについて度々触れている。計算によれば、この宇宙の中の物質で分かっているのはたかだか5%で、あとは現時点で知られている物質とは異なる、何物か全くわからない暗黒物質が27%、同じく全く分からないダークエネルギーが68%。数値は書によって若干異なるが、大体そのぐらいだ。この両者がないと、星々が銀河としてまとまっていることも説明できないし、宇宙が加速膨張していることも説明がつかないらしい。
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http://www-sk.icrr.u-tokyo.ac.jp/xmass/darkmatter/index.html

 

『素粒子物理』では、ひとしきり数式で語った後、「したがって、バリオン・反バリオン対称の宇宙では、とうていわれわれ人類の存在を証明することはできない。何かがおかしいわけであるが、現在のところその解決方法はわかっていない」と戸塚氏は記している。バリオンというのは陽子や中性子など、下図の素粒子たるクォークからできているものを指す。これに深入りするとハドロンだのメソンだのとわからない言葉がたくさん出てきて迷路に陥るので、まずは標準模型ではそうなっていると受けとめておくのでいいと思う。
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http://www.kek.jp/ja/Research/IPNS/

 

アインシュタインの特殊相対性理論で、エネルギーは質量と等価とされており、E=mc2、すなわち質量×光速の2乗で表すことができる。そもそも宇宙は莫大なエネルギーから物質の根源である粒子ができ、その時は、必ず粒子と反粒子の対の形で生成され、それぞれ物質と反物質となる。逆に、物質と反物質は合体して消滅し、その時に途方もないエネルギーが出る。そうであるならば、宇宙には結局何も残らないはずなのに、現在はほとんど全てが物質で、反物質は自然には見られず、わずかに反陽子や反電子などが二次宇宙線から観察されるに過ぎない。宇宙論においてこれが大きな謎なのである。すなわち、今の理論では物質たる人類が現に存在していることの説明がどうしてもできない。謎と言われても、正直なところ我々素人には理解しにくい。ベルギーの貴族が山に登り、「この地図によれば我々はあの山の上にいる」と大真面目に言ったという小噺があるが、ともあれ、現実と合わなければ、やはり理屈の何かがおかしいわけだ。

 

「消えた反物質の謎」と表現すれば、何やら面白そうだ。では、それが謎の暗黒物資とどういう関連があるのか、ニュートリノの専門家である戸塚氏とどういう関連があるのか、こういう双六は興味が尽きない。少なくともボケ防止にはなるだろう。難し過ぎてかえってボケるかも知れない。続く。

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