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2015年7月 5日 (日)

火山噴火 その2 医師が書いた火山噴火SF小説

『破局噴火』(高橋正樹 祥伝社新書)の冒頭には、火山学者に衝撃を与えた「一冊」の本、という小見出しがあって、下記のように紹介されている。

 

  二〇〇二年、一人の医者の書いたSF小説が火山学会に衝撃を与えた。

  小説のタイトルは『死都日本』、著者の名は石黒耀である。

  この小説は、「超巨大噴火」という一般の人には耳慣れない名称の火山噴

火によって、現代日本社会がもろくも崩壊するあり様を克明に描いたもので

ある。

  この小説を読んだ火山学者は、ほとんど例外なく強い衝撃を受けた。それ

は、『死都日本』がきわめて正確な火山学的知識に基づいて書かれていたこ
 と、
そして「超巨大噴火」という、自然科学的事実ではあるものの、想像の
 域に
あって現代社会の誰もまだ経験したことのない噴火現象や、そのもたら
 した
深刻な火山災害の状況を、あまりにもリアルに描き切っていたからであ
 る。

 

石黒氏の本業は医師ということなので、アマチュアと言えばアマチュアなのだろうが、専門の火山学者からこれほど高く評価されるものを書いているということに驚く。まさにプロはだしである。文才もあるのだろう。我が習性として早速に読んでみた。

 

小説の舞台は宮崎県で主役は加久藤火山。といっても、加久藤という名前には私がそうだったようになじみのない人が多いかも知れない。現在のえびの市のある場所は加久藤盆地と呼ばれていて、今はそうだと認識できないようだが、これは34万年前に巨大噴火を起こして陥没した加久藤カルデラの痕跡である。隣接した小林市は52万年前に形成された小林カルデラの中にあり、それらカルデラの南側に今も噴火活動を続ける新燃岳などの霧島火山群が位置している。『死都日本』(講談社文庫)は、ここが超巨大噴火(破局噴火)を起こしたらどうなるかというのを石黒耀(ペンネーム)氏が小説仕立てで書いた大作である。下記のデッサンはまさにそれを描いたもので、『Newton別冊「富士山噴火と巨大カルデラ噴火』(ニュートンムック 201412月)に掲載されている。
Photo_2
日本ペンクラブ会長で人気小説家の浅田次郎さんが、小説はエンターティンメントであり、小説家というのは壮大なホラをふく、というようなことを書いておられたが、『死都日本』は人物設定こそフィクションであっても、ことその火山噴火の記述は専門家を唸らせるほどの正確な記述をしているようだ。あまりにも詳細で学術的なので私には検証能力はないが、火山噴火に関する私が知る範囲の書の内容とよく合致しているので、石黒氏は筋金入りの相当な火山オタクなのだろう。火山だけでなく、色々な方面に該博な知識を持っておられることは間違いない。医療関係の記述はあまりないが、手術室についての描写で、「外回りの看護師」という表現があるので、業界人であることを感じさせる。「清潔介助の女性看護師」という表現もあり、それは間違いではないのだが、手術室では「清潔介助」はもっぱら「手洗い」と呼ぶことが多いので、内科系の医師なのかなぁとも思った。

 

それと、救難に活躍するFH-60(仮想名)はUH-60を改装して火山灰対策を施したという設定になっているが、本書の中では主回転翼が3枚と表現されている。UH-60がベースであれば4枚である。ま、こんなことは全く本質的なことではない。UH-60は御嶽山での救助でも活躍しており、こういうタービンエンジンのヘリは、小説と同じかどうかは知らないが、この時は相当に厳重な火山灰対策を施していたはずだ。なお、小説の中では火山灰でエンジンが停止したのは全日空機となっているが、ブリティッシュエアウェイのジャンボ機が1982年にインドネシアのガルングン山の噴火での火山灰を吸い込み、前方窓が傷だらけになり機体が白く光り(セントエルモの火)、エンジンが4基とも停止したという事故が実際に起こっている。幸い、降下中にエンジンの再起動に成功したため大惨事が避けられたが、この時以来、火山噴火と火山灰の情報はきめこまかくパイロットに伝えられるようになった。このことは衛星チャンネルのナショナルジオグラフィックの「メーデー」でも取り上げられていた。

 

超巨大噴火は、決して奇想天外な話でもホラ話でもなく、現実に起こり得ることだ。だからこそ、その可能性があると思っていても、予知ができず発生頻度も極めて低いことなので、それを露骨に言いにくかった火山学者が『死都日本』に衝撃を受けたのだろう。本書の発刊後にシンポジウムまで開かれたそうである。霧島で超巨大噴火が起これば、えびの市、小林市は言うに及ばず、宮崎市、鹿児島市も火砕流、火災サージで全滅になるというのだからおだやかではないどころの話ではない。日本全体にも火山灰が降り注ぎ、太陽光が遮られて悲惨なことになるようだ。何十万年単位であるかどうかという話とはいえ、これほどの超巨大噴火には人間の英知で対処できそうにはないので、隕石衝突と同様、とにかく起こらないことを祈るほかない。まずは日常的に現実に起こっていて被害も出している、小噴火への対応力を強化していかなければならない。一般人としてすぐに出来ることとしては、決して噴火を甘く見ず、兆候の報道に眼を光らせておくこと、あらかじめ避難場所を想定しておくこと、火山灰が眼や呼吸器に入ることを防ぐゴーグルとマスクを各人が用意しておくといったことだろう。

 

その石黒耀氏は『富士覚醒』(講談社文庫)をも著している。目を通してはみたが、長編で小説のストーリーの合間に富士山の噴火が語られているので、火山知識を得る目的としては少々読みづらかった。ただ、火山が我々に裨益している面も多くあるということを知ることができた。富士山については前回の稿で引用した『富士山噴火』や先に引用した『Newton別冊「富士山噴火と巨大カルデラ噴火』の方がわかりやすい。それはまた稿を改める。

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